第5日目はヴェネツィア。じきに海中に没するといわれている歴史ある町だ。アンバランスなまでにゴージャスなこの町には、世界中からお祭り好きが集まってくる。

第5日目:ベネツィア!
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 ベネチアが海に沈みつつあるのは、なにも潮の状態だけが原因ではないらしい。

王宮として建立されたドゥカーレ宮殿があまりにも大きく、その建材である大理石の重さで地盤沈下が進んでいるらしい。なんという笑えない馬鹿馬鹿しさだろう。

 この宮殿、基礎部分はもうガタが来ているらしく、大理石で組まれた数十畳ほどの広間の床が、我々の歩みでぐらーっと揺れるのだ。それもはっきりと体感出来る程に。
仮に倒壊しても、木造建築物ならまだなんとか助かりそうな気がしないでもないが、石はマズい。絶対脳みそが出る。もう生きてらんない。
正直なところ、かなり恐かった。

 

 

 

 

 ベネチアの本島まで水上バス(渡し船)で移動。
まずは観光客らしくベネチアガラス工房に団体様ご一行した。

 応対してくれたお店の方はみんなイタリア人だったが、日本語の上手い事!
文法が正しいというだけではなく、冗談を言って我々を笑わせるのだ(ナントカの一つ覚えみたいなベタなネタではなく、けっこう臨機応変に冗談を飛ばしていました。それも、バシッ!とスーツを着たおっさんが)。

 

 

 

 いきなり金の話で恐縮だけど、本物のベネチアガラスは本当に高価だ。
何を今さら、て言われそうですが、しかし実物を見ると納得できた。
これは宝石なのだ。鉱物ではないだけで、人の手が加わることで生まれた、とびきりの宝飾工芸品。

うれしいことに撮影自由(他所じゃ作れませんよという自信の現れかも)。
ン百万円クラスの作品をしっかり撮影してきました。

 

 

 

 さてこの日もオプショナルツアーはキャンセルしていたので、午後から我々二人は自由行動。
あの、カーニバル時に着ける仮面を探して、我々は本島の奥深く潜入する事にした。
ベネチアの印象は・・・。どっかで味わった事のある、この雰囲気。
売っているものは高いし、独特の文化圏ではあるのだが、この、細い路地の両側に、狭いお土産物屋がどこまでも並ぶ街の造り・・・原宿竹下通りだ。やったぜ嫁さん!決めた、ベネチアは今後『イタリアの竹下通り』と呼ぼう。

 夕方、一件の飯屋に入った。
所持金がキビシかったので、安いメニューを置いているバール(大衆食堂)に入ったつもりだったが、値段はなぜかリストランテだった。

 二人がけのテーブルが四脚くらい、カウンターなしの狭い店。
ここのマンマらしいfatなおばちゃんはカタコトしか英語がしゃべれず、まして日本語は全然駄目。とりあえず、メニューを見て分かる範囲で、マルゲリータを注文した。

 さて、他に何食べようか?こういう時はお店の人に「おすすめは?」と訊こう。大抵の店なら、本当においしい料理を持ってきてくれるはず
。それでやたら高いけどまずい料理や、箸にも棒にもかからんものを持ってくるようなら、そんな店はなに頼んでもロクなものは持ってこない。
たとえメニューが理解出来たとしても、だ。
おらはアジアの王子様だべ、みたいな顔をして、マンマ一押しの、お勧めパスタを注文した。

 マンマはいい人だったよ。
ピザの前にまずサラダを食べなさい、とか簡単なマナーを教えてもらいながら、とびきりのひとときを過ごす事が出来た。
食後のホットチョコレートの濃厚な味は、おそらく死ぬまで忘れない。新婚旅行でこんな思い出を作る事が出来て、僕は幸せだ。

 

 

 

 

 夜も更けてきたし、そろそろ帰るとするか。
僕らは添乗員さんに教えてもらった手順通りに切符を買い、船に乗る。狭く、通勤客ばっかりなので感覚的には本当に「バス」だ。
しかし通勤バスの車内って、どこも一緒だな。みんななんとなく疲れた佇まいで、進行方向をぼんやり眺めている。

 我々は「ローマ広場」という停留所で降りなきゃいけないんだけど、下車のアナウンスがない。
しょうがないから隣に立ってた黒人さんに次はローマ広場か?と聞いてみた。でも、俺も旅行者だから分からないよ、と返された。
後ろに立っていた女性連れの紳士に聞いてみたところ、どうやら次の停留所がローマ広場らしい。看板を見て御覧、とか指差しながら言っていた。読めないよ。

 肝心の「ローマ広場」に着くと、先ほどの紳士が「着いたよ」と教えてくれた。気配りどうもありがとう。

 船を降りてタクシーでホテルに帰る。
船着き場の近くに鉄道の駅があり、駅前のロータリーにはタクシー乗り場があって、ずらっと並んでいる。この風景は日本と一緒ですね。
けど、あれ?どの車にも運転手がいない。
列の後ろに新たにタクシーが着いたので、乗せてくれ、と頼むと、前の車に乗れ、と言う。
運転手がいないと告げると、じつは乗車場の近くに運転手さんの控え小屋があって、客はそこに運転手を呼びに行くんだって。
それならそうと書いてどっかに貼っとけとも思ったが、話しかけた運転手さんが気を利かせてくれて、控えの運転手さんを呼びに行ってくれた。

 小屋から出てきたのは、ダスティン・ホフマン似(トッツィ出演時)の調子のよさそうなおじさん。これまたハイスピードでホテルまで送ってくれた。

 ヨーロッパでタクシーというと、僕はどうしてもフランス映画の「TAXi」が頭に浮かんでしまい、プジョー改の爆速ドライビングを連想してしまう。
あの映画って、ひょっとしたらヨーロッパのタクシーは飛ばしますよーという事実が下地としてあるのかも知れない。で、観た人は「そうそう、ブッ飛ばすもんな。こここまではねーけど」と笑う。

 ホテルに帰って、コーチに座ってぼうっとしていると、さすがに疲れていたようで嫁共々そのまま眠ってしまった。

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