第3日目はローマ市内をフリー観光。
ツアーからは漏れていた、しかし押さえておきたい場所を地元の人を雇って周ることに。 |
第3日目:ローマ観光
ここで大変お世話になった方がいます。市内をガイドして頂きました、グッズ店『Ciao Roma』の女性オーナー・Hiromiさんです。
この日は終日、オプショナルツアーが組んであり、オプションをつけていなかった我々を含む7人は完全な自由行動となった。そこで、なにか一品、彼女のお店で買う事を条件にHiromiさんにガイドをお願いする事にした。彼女はてきぱきとバスを手配してくれ、我々は市内観光に。
とてもとても一日二日では見学しつくせない、歴史と芸術の街・ローマ。合わせて、地元の穴場や裏話なんか聴けたら面白い!と思っていると、彼女がまず案内してくれたのが『オレンジ広場』。
丘の上の高級住宅街にある公園で、ここからだと市内が一望出来る。地元でも有名なデートコースらしい。
福岡在住の方、油山展望台を思い起こして下さい。だいたいあんな感じです。もっとはるかに広くて閑静ですけど。
ここはいかにもヨーロッパらしい、幹がまっすぐに伸びた松の木(それもやたらと背が高い)とオレンジが混植してあり、大きな松ぼっくりや食べられないオレンジ等、いろんなものがそこらじゅう落ちていた。
この、でかい松ぼっくりのひだの間には小指の先ほどの松の実がたくさん付いていて、地元の子供達のおやつになっているらしい。なるほど、確かにそこらじゅうに松の実のカラが落ちている。
ツアー仲間の男性がひとつ試してみたが、「シブい」と一言。「それはハズレですよ。古かったのかもー」とさらりと返すHiromi姉さん。
朝のひんやりした空気の中、草を踏みしめ樹の間を歩いたのは一体いつ以来だろう。いつの間にか時差ボケは治まり、明るい日差しを楽しんでいる自分がいた。
続いて、真実の口を見に行く。ローマだし、やっぱり抑えとかなきゃいけないでしょ、という事で。
真実の口は、教会に展示してあるとの事。どこかの博物館かと思っていたんだが、まあこっちは教会か博物館か分からないところも多いので、ふーんと思って話を聞いていた。
その教会は十ン世紀の建物で、毎週日曜日にはーという声を聴きつつ、バスが減速を始めたので窓の外を眺めていると、目に入った教会の軒下に、なにやら見た事のある顔が。あ、ヤツだ。
真実の口。かつてはローマ市街のマンホールのふただったという、齢二千歳を遥かに超える、歴史の遺産。なんと教会の軒先に、ワイヤーでくくりつけられたままで展示という想像もしてなかった扱いを受けていた。
倒れないようにとはいえ、ワイヤーが目ン玉貫通してます。
では、お約束です。まず嫁に手を突っ込ませ、何事も起こらないのを確かめて自分も手を入れてみた。
当たり前だけど、普通の石像だ。口許を見ると、時間と、多くの人の手のせいだろう、角が取れてつやつやに光っていた。
ふと気付いた。手を差し入れる時、自分の手を見つめたままの人と、石に彫られた顔を見つめる人の2タイプがいることに。僕は、ヤツの顔を見た。どっちだからどうだ、なんて言わないし、分からない。ただ・・・
僕らのすぐ後に、地元の子供達が先生につれられて見学に来ていた。キャーキャーワイワイと、手を差し入れる子供達。
僕はもう大人なのだということだ。
その後で、フォロ・ローマという公園に行きました。もうそこらじゅうが遺跡だらけです。__
Hiromiさんの店に行き、買い物を楽しむ。グラスから衣類からバッグ関係から何でも揃った、小さな店だ。ちなみにご主人はこちらの方らしい。
お店ならではの・・・というものはなかったように思うが(見落としてたとしたらごめんなさい)、ここに来れば食品以外の土産物は何でも揃う、そんな感じだ。
日本語が堪能な、イタリア人の店員さんがいろいろと説明をしてくれた。
親父のためにネクタイを買ってあげたい、63才だよ、と言うと、声の感じが微妙にかわったのが分かった。向こうの人たちは、ひょっとしたら日本人以上に家族を大切にしているのだ。
さて、もうすぐ正午。観光ガイドでは味わえない、美味しいお店がどこかにないか? Hiromiさんは抜かりなく美味しいお店を紹介してくれた。
ビルの地下へ続く階段を下りて行くと、雰囲気のいいお店が出現。彼女の行きつけのお店らしく、女性オーナーの方が愛想良く応対してくれた。
そこで我々は、一人あたりの予算を決めて、お店のお勧めを集めた特別メニューをオーダー!
一緒に注文したハウスワインは、味わいは軽過ぎず重過ぎず、微妙に酸味が残るが雑分の少ないもので、ぶどうの味を楽しめる逸品でした。これはいかん!何杯でも入る。
僕はワインはあまり詳しくないので、これがいい物なのかどうかは分からない。飲んで楽しめるか、美味しいか、あとで妙に具合が悪くならないか、自分の体に聴いて判断する事にしている。で、これは間違いなく、いいワインだった。
お昼からはHiromiさんや他のツアー客とも別れ、嫁さんと二人っきり、ハイヤーでふたたび市内を観光した。手配してもらった車がグレーのランチアで、クラウンクラスのでかいセダン。
思わずマフィアになった気分だったが、横に乗っている嫁さんを見れば、お尻の上辺りにウエストポーチをかけて、その上から卵色のコートを羽織っているのでどう見てもハトかヒヨコ。私は養鶏業者ですか。オリーブの葉でもくわえさせてやろうか。
ドライバーはマッシモ氏。僕がわおー!ランチアだーと車の写真を撮りまくっていたのを見て、このニッポン人にはあんまり関わらない方が・・・と気をつけたからかも知れないが、口数の少ない、誠実そうな感じのドライバーだった。運転テクニックはスゴかったけど。
いいおじさんで、 「ランチアストラトス」「デルタ!」とか、後ろのシートで勝手に盛り上がっていると、困ったな、という感じでうっすらと笑ってくれました。
イタリアの交通事情は、悪い。まずバスや電車が時間通りに来ない。時間にとらわれない国民性(おそらく)と、「よーしストやろーぜー」で簡単に(しかも頻繁に)ストライキしてしまう勤務態度のせいだ。
だからみんな、自家用車に乗る。
この車が曲者で、イタリアには車検制度がないためか排ガスが異常にクサい。
数年前、排ガスに含まれる硫化物質が貴重な遺跡を蝕んでいるという報道があり、ローマ市内へのクルマの乗り入れが規制されるという事があったが、その前に明らかに人間の健康を蝕んでいる。それほど濃くて臭い。
そして路駐天国。
道の両脇には、見渡す限り縦列駐車の列。ひどいところでは二列で止めてあったりする。警官が取り締まらないのだ。仮に検挙されても、免許の点数は引かれず、微々たる罰金で済む。
また、道路には中央線以外のラインが引いていないため、かなりの自己判断で車線を読み取らなくてはならない。
しかも、少々こすっても平気。慣れてる人間じゃないと、絶対に運転してはいけないところだ。
午後は彼に連れられて、カラカラ浴場跡、ベネチア広場(ビクトル・エマニエル2世記念館。イタリア王国最初の王様)、フェラーリの展示場を見て回った。
マッシモ氏は、夕方だけ別の用が入っているから、と我々を置いて自分の仕事に戻って行った。夜に迎えにくるから、と。
日が西に大きく陰り、街全体が夜の雰囲気になって行く。
目的もなく歩き回るのも疲れるので、食事をとる事に。夕食は、マッシモ氏との待ち合わせ場所の近く、スペイン広場のそばのカフェテリアで済ませた。
さてなにを食べたかというと、パニーニ(イタリア風サンドイッチ)ひとつとカフェ・アメリカーナ。
たったそれだけ?食が細いのでは、と思われた方もいるでしょう。
日本では、一回の食事でラーメンを3杯食い、ついでに炒飯なんかも頼んじゃったりするこの僕ですが、イタリアの食事は、なんだか妙に密度が濃い!
サンドイッチにしても、薄くふわふわのパンに歯ごたえのやさしいハムが一切れ入ってる、なんて事はなく、ずしっと重いパンに、根性入れて噛まないと噛み切れないハム、厚くスライスしただけのトマト、チーズの塊などがぎゅっとつまっている。サンドイッチ一つで十分な食事になるのだ。
カフェ・アメリカーナ(アメリカンコーヒー)も、ちっともアメリカンじゃなかった。思わず砂糖を入れてしまいました。
午後7時には、マッシモ氏が迎えにきてくれた。イタリア人にしては珍しい、時間に厳格な人らしい(ひょっとしたら向こうからすれば、我々は日本人にしては珍しく時間にルーズな人達だと思ったかも)。
黙々とクルマを走らせる彼は、どんなに交通事情が悪くても動じず、慌てずにハンドルを切り、誰よりも速く街を走り抜けて行く。彼のあやつるランチアは、シングルカムの大排気量らしく、余裕のトルクと粘り強さでクルマの波を切り開く。
僕は、彼の大柄な背中を後部シートから見ていると、ふと、彼は家族にとっていい親父さんなんだろうな、となんとなく思ってしまった。
ホテルに着いたのは夜の八時前くらい。マッシモ氏との別れ。僕らは彼に対して、彼の労働そのものに適価を支払い、彼個人のドライバーとしてのプロ魂、プライドに対して感じたままの報酬を支払った。おそらく、これがチップというものだろう。
マッシモ氏は大きな手で握手をしてくれて、これからの僕らの旅が良いものであるようにと祝福してくれた。
さてと、もうくたくただ。10時くらいにはまぶたが重くなってきて、そのまま意識を失う。 |